2023年9月4日
幸福論(後編)
「遠くを見よ」
憂うつな時にはこれが一番の方法とアランは説きます。「人間の目というものは、書物との間の距離のような短かい距離に合うようには作られていない。広々とした空間で憩うものなのだ。星や水平線をながめていれば、目はすっかり安らいでいる。目が安らいでいれば、頭は自由になり、足どりもしっかりしてくる」。憂うつな時にはスマホを消して遠くを見るのが良さそうです。
「悲観主義は気分に由来し、楽観主義は意志に由来する」
幸福になるためには、幸福でありたいと願って、そのように行動することが求められます。一例として「上機嫌療法」なるものを紹介しています。「いっさいの不運や、とりわけつまらぬ事柄に対して、上機嫌にふるまうこと」で悪い物事や状況を無害なものとして受け入れられるようになるというものです。これは確かに効果がありそうですが、いつも上機嫌でいることはできないとアラン自身も認めています。
「微笑のまねをしてみせただけでも、もう人々の悲しみや悩みは弱くなる」
こちらは大変理にかなった実践しやすい行動です。ほほえむことで筋肉は適度に弛緩し、無意識のレベルで好い記憶がよみがえり、周囲の人々の心を和ませます。微笑みによって、不機嫌、後悔、絶望などとは真逆の好循環を生み出すことが期待されます。
「(幸福は)現に持っていることが肝心なのだ。未来に幸福があるように思われるときには、よく考えてみるがいい。それはつまり、あなたはすでに幸福を持っていることなのだ。期待をもつということ、これは幸福であるということだ」(アラン『幸福論』宗左近訳、社会思想社)。
アラン『幸福論』の手触りを感じていただければ幸いです。この本の初出はフランスの地方紙の日曜コラムとして一般向けに書かれたものでした。柔らかな言葉で綴られた93の哲学的エッセイは、何かで行き詰まったときなどに読んでみる価値がありそうです。