タムラクリニック

アクセス

休診日月曜・日曜・祝祭日

042-451-5533

ご予約はお電話にて承っております。

MENU

ハナコ短信

2024年3月20日

悪夢

明け方に目を醒ますと部屋の様子がどこか違っています。耳元で不気味な声がして、耳を澄まします。また声が聞こえて起きあがろうとすると、体を押さえつけられて身動きできません。恐怖に駆られて助けを呼ぼうとしても、声帯を通るわずかな空気は声になりません。
これは、“金縛り”と呼ばれる現象で大抵は悪夢の体験になります。ありありとした幻覚を伴うこともありますが、心霊現象ではありません。「睡眠麻痺」の一種で国際分類では「レム関連睡眠時随伴症」に相当するものです。夢の内容を心配する必要はありませんが、疲労や睡眠不足が重なった時に起きやすいので、生活習慣を見直すきっかけにしていただければと思います。

夢は悪夢の方が圧倒的に優勢で、これは国や文化に関わらず共通の傾向とされています。ただ、朝までぐっすり眠れる人は悪夢体験を認知しないかも知れません。
悪夢を大きく2つに分けると、1つは現実の体験や出来事を反映しているものです。たとえば、会社の大切なプレゼンテーションで大失敗をしたとか、パーティーに行ったら自分だけ場違いな服装だったとか、徹夜で仕上げた宿題が学校でカバンを開けると入っていなかった、などというものです。これらの夢は話の筋道に論理的な矛盾はなく、深いノンレム睡眠時に多いとされます。
もう1つは物語性があって全体としてサスペンス仕立てのようなもので、それぞれの場面は過去の体験や思考を映している部分があるけれども、話の展開や場所や時間体系の整合性がないような夢です。たいていハッピーエンドにはならず、起きた直後に不思議な気がするものは典型的なレム睡眠時の夢とされています。ちなみに、レム睡眠中には大脳皮質の血流量が増加して脳の老廃物の除去が活発になっていることが明らかにされており、すなわち、レム睡眠は認知症リスクを低下させることが示唆されています。

多くの睡眠研究から、眠っている時に脳は「記憶の統合と定着」のための夜間作業を行なっていて、この過程で夢という現象が現れることが分かってきました。
ところで、不安や恐怖を伴う体験が強く記憶に刻まれることは誰しも覚えがあると思いますが、これは脳の扁桃体や海馬と呼ばれる部位などが活性化されて記憶の定着が促進されるためです。負の体験の記憶とそれに伴う情動反応は、進化の過程で獲得された生存競争を勝ち抜くための重要な機能でした。
なぜ夢は悪夢が多いのでしょうか。この問いに対して神経科学者のデイヴィッド・J・リンデンは、脳は睡眠中に「記憶の統合、定着を促すために、恐怖や不安、敵意の感情を無理矢理に引き起こしている」(『つぎはぎだらけの脳と心』)と唱えています。

悪夢から目覚めた時には、「ああ、夢でよかった」くらいに思うのが良さそうです。

ご予約・ご相談はこちら