2023年12月18日
俳句の心的効用(前編)
「俳句でも作ってみませんか」
「えっ? やったことありません。それに何で俳句なんか……」
「まァ、こういう頭も使って下さい。小学生のときに学校でやりませんでしたか?」
「そう言えば、作ったかも知れません」
「句は出来なくも構いませんから、今の季節のもの(季語)を探して見て下さい」
こう言われると、まァしょうがないかと思いつつ、普段の生活の中に季節感を探すようになります。学校や会社や買物の行き帰りにちょっと自然を眺めるようになります。普段は気に留めない見慣れた日常の中に嬉しい発見をすることもあります。
「俳句をはじめるまではさっぱり気づかずにいた自然界の美しさがいったん俳句に入門するとまるで暗やみから一度に飛び出してでも来たかのように眼前に展開される。今までどうしてこれに気がつかなかったか不思議に思われるのである」(寺田寅彦『俳句の精神』)
寺田寅彦の本業は物理学者ですが、随筆家、俳人でもありました。科学者が澄んだ目で観察して描写した自然観、世界観は今も色褪せることはありません。夏目漱石の最も近しい門下生で、「天災は忘れた頃にやって来る」の警句でも知られています。
自然を観察して季語を発見したら、そこを入口にして自然を無心に、五感で受け留めるのが良さそうです。忘備録としてスマホでスナップ写真を撮るのもよいでしょう。帰宅して日課を済ませて、気が向いた時に、発見した「季語」とその語を取り巻く自身の日常、気分、記憶、その周りの世間、社会、世界から連想する言葉を五七五に配置して見てください。
最初はかなり難しいかも知れません。上手な俳句を作ろうとしないで、頭に浮かんでいる言葉を「型」で抜くような感じでやって見てください。ここまでたどり着いたら、俳句が作れなくても心配は要りません。あなたは既に俳句の心的効用を手にしているはずです。